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素直に生きること

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【逆境】

それはその人に与えられた尊い試練であり、この境涯にきたえられてきた人はまことに強靱である。

古来、偉大なる人は、逆境にもまれながらも、不屈の精神で生き抜いた経験を数多く持っている。

 

まことに逆境は尊い。

だが、これを尊ぶあまりに、これにとらわれ、逆境でなければ人間が完成しないと思いこむことは、一種の偏見ではなかろうか。

 

逆境は尊い。

しかし、また順境も尊い。

要は逆境であれ、順境であれ、その与えられた境涯にすなおに生きることである。

謙虚の心を忘れぬことである。

 

素直さを失ったとき、逆境は卑屈を生み、順境は自惚れを生む。

逆境、順境そのいずれも問わぬ。

それはそのときのその人に与えられた一つの運命である。

ただ、その境涯に素直に生きるがよい。

 

素直さは人を強く正しく聡明にする。

逆境に素直に生き抜いてきた人、順境に素直に伸びてきた人、その道程は異なっても、同じ強さと正しさと聡明さを持つ。

 

おたがいに、とらわれることなく、甘えることなく、素直にその境涯に生きてゆきたいものである。

 

松下幸之助(『道をひらく』の著書)

 

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